「僕、大魔王になっちゃった」
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エックスは、そう言って悲しげに笑った。

アストルティアから切り離された魔界。そこに暮らす魔族。
元々は皆同じアストルティアの住人だった。

魔族に変じ、魂を蝕まれて、ようやく魔族の心を知った。
彼らには、アストルティアへの筆舌に尽くしがたい強い怨みと敵愾心がある。
理屈ではなく、自分でもどうしようもない、魂に刻まれた憎悪と怨念が彼らを駆り立てる。
魔族には、アストルティアで生きてきた者たちには決してわからない苦しみがあった。

村を滅ぼされ、自らの命も奪われたあの日を忘れたわけではない。忘れられるはずがない。
最愛の兄を傀儡のように弄ばれ、その手で葬ったアンルシアの涙を忘れたわけではない。
長い歴史の中で、どれだけの命が魔界の者たちによって奪われていったのだろう。
考えれば考えるほど、魔族たちへの怒りや憎しみが募ってゆく。

でも、それではいけないと思った。
このままではまた同じことが起きる。この先も、永遠に勇者と大魔王が戦いを繰り返すなんて、そんなの悲しすぎる。
ループを断ち切れば、アストルティアと魔界が歩み寄ることができれば、勇者だっていらなくなるかもしれない。
アンルシアだって、普通の女の子として生きていけるようになるかもしれない。

だから、エックスは大魔王になること受け入れた。
たとえアストルティアの人々からどんな誹りを受けようとも、決して挫けない。
アストルティアも魔界も、必ず救ってみせると自分の心に誓ったから。

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