小ネタ
炎を挟んだ向こう側に見える娘の姿が揺らめく。娘の髪は淡い緑色をしており、瞳はそれよりも鮮やかな緑に光る。
不思議だ。木にもたれ掛かりながら、紫鸞はその髪をぼんやりと眺めた。自らの瞳の色も、珍しいと指摘される。しかし彼女の髪と瞳はもっと珍しく、かつ目立つはずなのに、今まで誰かに言及されているところを見たことがなかった。
かく言う紫鸞自身も最近まで疑問に思っていなかったのだ。彼女の髪と瞳が珍しいものだと気付いたのは、霊鳥の目を通して見た時だった。色を認識できていなかったわけではない。ただ、意に介すことがなかった。
脳を騙されたような気がして、どうにも寝覚めが悪い。人の身体のことなどあまり詮索することではないが、紫鸞は意を決した。

「その髪と目の色は、生まれた地方独特のものなのか?」

突然放たれた言葉に、娘は顔を上げてその鮮やかな瞳を紫鸞に向けた。一瞬驚いたような表情をしたものの、すぐにいつもの飄々とした態度へと戻る。

「……この色ってそんなに変?」

聞いて紫鸞はやはり聞くべきではなかった、とやや後悔をした。

「そういう意味では……すまない」
「いいの、わかってるわ」

紫鸞の心中を察したのか、娘はその瞳を優しく細めた。普段は喧しいぐらいに明るく落ち着きがないのに、ふとした瞬間にこういった顔を見せる。その瞳を見ると、不思議と不安や心のざわめきが鎮まっていく。記憶が欠けた紫鸞にとって、それは救いになることがしばしばあった。はじめは旅に付いてこられることを渋ったし、実際鬱陶しく思ったが。

「客観的に見て目立つかどうかってこと」

少し躊躇ってから紫鸞が頷く。娘は、その華奢な姿には似つかわしくない銀の小手を顎に当てて何かを考え込んだ。

「私には周りから浮かないようになる術がかかってるの。だから、普通は私の髪も目の色も、変だなって思わない筈なんだけど……あなたのその霊鳥の目は誤魔化せないみたいね」
「そうだったのか。道理で……」
「私の住んでるところでは珍しくもなんともないんだけど、こっちでは目立ちすぎるからね」

術とはなんだ。そもそもどこから来て、何をしに来た。捜し物があるとは言っていたが、何を探しているのか。疑問はまだまだある。だが、自分の髪をつまんで眺める娘を、これ以上追求する気にはなれなかった。彼女の瞳には見る者に安らぎを与える、不思議な光がある。今は、それだけわかっていれば構わないと思った。
たたむ

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